「ただいま〜。ん?」
 水瀬家に着くと、玄関に見覚えのない靴が置いてあった。誰か客人が来ているのだろうか。
「……今日で丁度7年になりますわね……」
「……ええ。時々見舞いに行っているのですが、あの娘はまだ……」
「……あの人がいれば何とかなったかもしれませんのに……」
 居間の方から聞こえて来る話し声。一つは秋子さんの声で、もう一つはおしとやかで気品のある女性の声だった。
「あっ、祐一お帰り〜」
 俺が帰って来たのに反応してか、名雪が2階から降りて来た。
「なあ、名雪。居間に誰か来てるのか?」
「うん、お母さんの知り合い」
「ふ〜ん」
 秋子さんの知り合いがどんな人か気にはなったが、整理の続きなどをしたいので、俺はその足で自室へと向かった。
「さて、次は何を運んで来るかな?」
 昨日は生活に欠かせないストーブや寝具などを運び、今日の午前中は名雪の協力を得てタンスを運んだ。生活に必要なものはあらかた運んだので、次は既に運んだCD以外の娯楽や趣味に関するものを運ぼうと思った。
「さてと、本棚を運びたい所だが、客が来てるなら大きな音は出せないな……」
 しかし漫画などは読める状態にしておきたいので、とりあえず漫画などが詰まったダンボール箱ぐらいは持ち運んでおこうと思い、行動を開始した。
「ではまた後程〜」
 一階に降りると丁度客人の女性が帰る所だった。秋子さんの知り合いなのだから大人の女性かと思ったが、大きなリボンが特徴の髪の長い俺と年が同じか少し上位の女性だった。その女性が帰るのを見送った後、俺はダンボールを抱えて再び階段を昇った。
「さてと、このダンボールには何が入っているのかな?」
 漫画本などを詰めたダンボール箱は全部で4つ程あるが、中に何を入れたか詳しく書いたわけではないので、開けてみるまで何が入っているかは分からない。
「『ドラえもん』に『まんゆうき』に『幕張』……おっ、これは『MMR』!」
 所蔵していた漫画本は全て持って来たのだが、このダンボールに入っていた漫画は自分が好きな漫画ではあったが、久しく読んでいない漫画ばかりだった。
「そういえば今年は1999年だったな……」
 そう思い返し、俺は作業を中断して『MMR』を読み始めた。思えば初めてこの漫画を読んだ当時は小学生だったこともあり、来るべき1999年の到来に恐怖していたものだ。今はそれなりに冷静に構えられるようになったが、心の何処かでは何かが起きるのではないかという期待感を持ち続けている。
  「そういえば……MMRといえば……」
 MMRで思い出したが、昨日はマガジンの発売日だった。部屋の整理に東奔西走していてすっかり忘れていた。すぐにでも買いに行こうかと思ったが、今はMMRを読むのを優先したいと思い、2時間程読みふけってから再び商店街へと赴いた。



第参話「あゆとの再會」


「ん? あれは……」
 商店街に赴きコンビニでマガジンを買おうとしたら、その前に立ち尽くしている背中に羽の生えたあの少女の姿が見えた。よく見ると特徴的な羽はリュックに付着していたものであり、少女は大きな紙袋を大事そうに抱え、どこかもの哀しそうな雰囲気で俯いていた。
「なんだ、まだ待っていたのか?」
「あっ……」
 俺が呼び掛けると、まるで待っていた人に会えたかのような笑顔で少女は私に近付いて来た。辺りは夕暮れが差し掛かり、黄昏と闇とが互いに干渉し合っている時間帯だった。この少女はそんな時間まで来るとも限らない大好きな人を待ち続けていたのか、そう思うと自然に心が苦しくなる。
「よくこんな時間まで人を待っていられるな。呆れるを越して感心するよ……」
「平気だよ。もう何年も待ち続けていたんだから。だからいくらでも待ち続けていられるよ……」
 そう無邪気な笑顔で返す少女。でも一見元気に見える笑顔の裏には、深い孤独感が垣間見える。会えない淋しさで今にでも泣き出さんとする自分を必死に笑顔で支えている様で、その笑顔は余計に俺の心を苦しめさせる。
「そうか。ところでその袋の中は……」
「たいやきだよ。もう冷たくなっておいしくなくなっちゃっていると思うけど……」
 返答は聞かずとも分かっていた。紙袋の中に手付かずの鯛焼きが残っていたことぐらい、この少女の性格から容易に想像出来た。
 大好きな人と一緒に食べたい、そんな素朴な願いが込められ冷たく冷え切った鯛焼き。その姿は大好きな人に未だ会えずにいる少女の心を反映しているかの様だった。
「やれやれ、そんなになるまで食べられなかったら鯛焼きが可哀想だぞ」
「うん、そうだね……」
「何なら俺が1つくらい食べてやろうか? いくら何でもそんなに冷え切ったのを一人じゃ食べられないだろ」
「それもそうだね。じゃあ特別にキミに1つあげるよ!」
 淋しさを抱えた笑顔にほんのりと温かみが増した。私はその少女に鯛焼きを貰い、一緒に食べ始めた。
「うぐぅ、たいやきはたいきやだけどあんまりおいしくない……」
「そりゃそうだ。大体鯛焼きってのは……」
「焼き立てが一番だよねっ!」
「えっ、よく俺の言おうとしていることが分かったな……」
 鯛焼きは焼き立てが一番。一見素っ気無い常識的な言葉に聞こえる。でも何だろう、この懐かしさは? その言葉が少女の口から出たことに言われようのない懐かしさを感じる……。
「ボクの言葉じゃないけどね。ボクの大好きな人が、ボクに初めてたいやきを買ってくれたときに言った言葉なんだ。それ以来ボクにとってたいやきは大好きな人といっしょに食べる大切な食べ物になったんだよ」
「その大好きな人の名は……」
 思わず俺はそんなことを訊ねてしまった。少女の言動は、まるで俺の凍った記憶を少しずつ溶かし出しているかの様だった。
「祐一君、相沢祐一君って人だよ!」
 少女の口から語られる俺の名……。その瞬間ヒューと冷たい北風が二人の間を吹き抜けた。
「あ……ゆ……?」
「えっ!?」
「あゆ、月宮つきみやあゆだろお前」
「えっ、どうしてボクの名前を……」
 知らない筈はない。何故ならば俺は……
「分からない筈ないだろ? だって相沢祐一ってのは俺の名前なんだから……」
「キミが祐一君? キミがボクの、ボクの……」
 ドサッと鯛焼きが入った紙袋が落ちる音が聞こえた。そして次の瞬間、あゆは俺に抱き付いていた。
「お、おい……」
   その動作に俺は少なからず途惑いを感じてしまう。いきなり抱き付かれたからでもあったが、何か違う他の途惑いも感じた。
「あったかい……。とってもなつかしい温かみ……。お帰り、祐一君……」
 俺を見つめる少女の顔は、埋もれていた時を洗い流すかのように流れる涙に溢れた、この上ない笑顔だった。
「ああ、帰って来たぞ。俺は再びこの街に……」
 そう言い、俺も優しく包み込む様にあゆを抱き締めた。けど俺はその再会を素直に喜べずにいた。今目の前にあゆは、俺の心の奥底にあった幼き頃のあゆの姿を紛れもなく投影していた。でも、何かが引っ掛かる。再会を素直に喜べない何かが……。
「あゆ、帰らなくていいのか? もうこんな時間だぞ? 家の人も心配しているだろうし、俺は暫くずっとこの街にいるからいつでもまた会えるし……」
「うん、そうだね……」
 そう頷き、あゆは俺から離れ、足元に落とした紙袋を抱え直した。
「じゃあね祐一君、また今度!」
 笑顔いっぱいの顔で手を振り、あゆは俺の前から立ち去った。その瞬間強い北風が吹いた。気が付いた時にはあゆの姿は既になかった。
「ああ、また今度な…」
 あゆだってそんなに子供ではないんだ、まだ家へ帰す時間ではないだろう。そう思いながらも俺は、あゆをまるで追い返すかの様に家へ帰るのを勧めてしまった。
 僅かに感じる心の違和感、それが結果的にあゆを避けるような形で別れる結果になってしまった。この違和感が何であるかが分かるまで、俺はあゆを素直に受け入れられない。そんな気がしてならない……。



「さて、夕食まで何してるかな」
 帰宅後、特にやることもなく暇を持て余していた。CDで時間潰しをしているのもあまり充実した過ごし方ではないと思い、テレビ関係を一式運んでくることにした。
「運搬完了と。さて、次は……」
 テレビを運び終え、次にビデオデッキ、セガサターン、プレイステーションを運んだ。その次はビデオテープを運ぼうと思ったが、所有量が60〜70本と量が膨大なので、取りあえずはゲームソフト関係を運ぶことにした。
「さてと、スパロボやら大戦略やらをやってると飯の時間になっても止められなくなる可能性があるしな……」
 そう思い、とりあえず「デスクリムゾン」で時間を潰すことにした。
「祐一〜、お夕飯だよ〜」
 程よく熱中していた所で名雪に呼ばれ、俺はゲームを止め台所へ向かった。
「おっ、今日の夕食は鍋か」
 台所に着くと、目の前には豪勢な鍋が展開されていた。ほうれん草、葱などの野菜に糸こん、茸、鮭に蟹……それらのあらゆる食材が鍋で煮られ、絶妙な香を醸し出していた。
「では遠慮なくいただきま〜す」
 茶碗にご飯を分けられ鍋の具を掬い取る皿を渡されると、俺は早速蟹に手を出した。用意されていた大きなハサミで蟹の甲殻を切り裂き、味が染みた身を思う存分味わった。
「美味い美味い。蟹だけでご飯3杯はいけるな」
「祐一、野菜とかもちゃんと食べないとダメだよ〜」
「生憎だが私の父は海辺の街出身でな。その遺伝のせいか本能的に魚介類しか口に出来んのだよ」
「う〜、言ってることがめちゃくちゃだよ〜」
「ふふっ……」
「あれっ、秋子さんどうかしたんですか?」
 俺と名雪がしょうもない談話を繰り広げていたら、突然秋子さんが何かを思い出したように笑い出した。
「いえ、ちょっと昔のこと思い出しましてね。私が結婚して間もなかった頃、祐一さんのお父さんがまだこの街に滞在していた頃でもありましたわね。当時、祐一さんのお父さんとお母さん、それに主人の親友ご夫妻も交えてよく鍋で騒いでいたのですよ。そんなある時、祐一さんのお父さんが野菜を食べないで魚介類ばかり食べていましたなら、祐一さんのお母さんが魚介類だけじゃなく野菜も食べなさいって叱ったのですよ。そしたら祐一さんのお父さん、自分は海辺の街出身だから魚介類しか口に出来ないって言い訳したのですよ」
「へぇ〜そんなことがあったんですか〜」
「ええ。そうしましたなら、今度は祐一さんのお母さんがなら私は農村部の街出身だから野菜しか食べないとか言いまして……」
「ははっ、父さんと母さんって喧嘩する程仲が良いって関係だからな〜」
「他にも男勢で飲み比べして勝負が付かなくて結局みんな酔いつぶれて寝てしまったりと……。みんな私より十歳以上年上でしたのに、それこそ子供のようにはしゃいで……。とにかくあの当時は楽しかったですわ……」
 懐かしい日々を終始笑顔で語る秋子さん。その遠き日々は秋子さんにとってどれ程楽しい日々だったのだろうか。
「ふう、食った食った」
 夕食後、俺は満腹の腹を抱え、名雪と共に2階への階段を昇っていた。
「祐一、今日はどうもありがとう」
「えっ、そんなに喜ばれることをした覚えはないが?」
「ううん、十分したよ。みんなで鍋を食べてあんなに騒いだの本当に久し振りだから……」
「えっ……?」
「二人だけだと鍋をやっても食べる人がいないから……。だからもう何年も鍋やっていなかったんだよ……。鍋やってあんなに嬉しそうに笑うお母さんの笑顔、もう何年も見ていなかったよ。だから祐一、本当に今日はありがとう」
 にこっと微笑み名雪は自分の部屋へと戻って行った。言われてみるまで気付かなかったが、そういえばこの家には俺が来るまでは名雪と秋子さんの二人しかいなかったのだ。
 たった二人だけの食卓。あの秋子さんなら例え二人だけだっとしても、それなりに賑やかにやっていただろう。でもそれは遠き日々の祭のように賑やかだった食卓に比べれば、何処か物寂しいものだったのではないだろうか。
(もし春菊さんが生きていたなら……)
 秋子さんの最愛の人、その人が居たら、今はどんな感じだったのだろう。自室に戻り蒲団で横になっていると、そんな事を考えずにはいられなかった。
(もし自分が同じ立場だったらどうだったんだろうな……)
 もし、自分が秋子さんのように最愛の人を亡くしたら……。けど、そう考えようとすると、突然何かに思考が遮断される。
 大好きな人を失ったら……そう考えることが出来ない……。嫌だ、そのことに触れるのが……。まるでそれに触れると自分の全てが崩れ落ちるかの様に……。



 その日の夜、俺はある夢を見た。夢の情景…、それは氷に閉ざされていた在りし日の俺の思い出……。そう―この夢は7年前のあの時の……

「祐一、買い物つきあって」
「うんいいよっ」
 その日ぼくは名雪に買い物にさそわれて、いっしょに商店がいに行くことになったんだ。でも家の外に出て体にあびた風はとっても冷たかったんだ。
「寒い……。買い物、や〜めた」
「まだ外に出たばかりだよ〜」
「寒い、寒いよ〜、こんな寒い日に外に出ろなんて強制労働だ〜、シベリア抑留だ〜、極東軍事裁判でうったえてやる〜」
「小学生のいうセリフじゃないよ〜。ただついてくるだけでいいから〜」
「わ、分かったよ。ついて行くよ、いっしょに行くだけでいいんだろっ!」
「うんっ」
 ぼくは寒かったから家の外に出たくなかったんだ。でも名雪がついてくるだけでいいからって言うから、ぼくはしぶしぶ名雪といっしょに買い物に行ったんだ。
「じゃあぼくはここで待ってるから」
「祐一、お店の中に入らないの?」
「だってついてくだけだってとしか約束してないもんね」
「でも、お店の中の方があったかいよ」
「ぼくは約束にはうるさいんだよ。買い物について行くだけだって約束したら、ついて行くだけ。お店の中に入るなんて一言も約束してないもんね〜」
「う〜分かったよ……。じゃあちゃんとここで待っててね」
「はいはい、分かりました〜」
 その時ぼくはいちおうそのお店の前で待っているって行ったんだ。でも……
(待っていろたって、ぼくはそういう性格じゃないんだけどな〜。そうだっ、名雪には悪いけど向いの酒店でカードダスでも買っていよ〜とっ)
 そう思ってぼくは名雪が店に入ってすぐ待っているって約束をやぶって向かいのお店に行ったんだ。でも、名雪の買い物より早く終わるだろうと思って、買ってすぐに名雪と約束した場所にもどれば約束をやぶったことにはならないと思ってたんだ。
「この町でカードダスが置いてあるのはここだけなんだよな〜ホントッ、不便な町だよな〜。あっ、ラッキー、キラだ!!」
 ぐい、ぐいっ
「んっ?」
 キラが当たってラッキーと思ってたら、急にだれかに服を引っ張られた。
「……う、ぐっ……えぐ……えぐぅ……」
 それで後ろをふり向くと、自分と同い年くらいの女の子が泣いていたんだ。
「な、おい、どうして泣いているんだっ? あっ、ひょっとしてこのキラがほしかったのか。でもいくら泣いたってやるもんか、このキラはぼくのもんだぞ〜」
「うぐぅ……ちがう……」
 キラをぼくにとられたのがくやしくて泣いているんじゃなくて一安心だよ。でも、じゃあ一体どうしてこの女の子は泣いてるんだろう?
「そうか、それならどうして泣いてるんだ?」
「うぐぅ……、お母さん、お母さん……」
「お母さん、もしかしたらお母さんとはぐれたのか……」
 お母さんとはぐれただけで泣くなんて子供だなぁ〜って思った。でもぼくもお母さんとはぐれると不安になることはあるから、人のことは言えないか。
「うぐぅ、それもちがう……」
 だけどその女の子はお母さんとはぐれたわけじゃないって言ったんだ。じゃあ本当にどうして泣いてるんだろう……?
「えぐ……うぐぅ……」
 その女の子はわけを全然話さないで、ただ泣いているだけだった。
(こまったな〜、これじゃあまるでぼくがいじめているみたいじゃないか〜)
 そんなことを考えていたら、くぅ〜とおなかの鳴る音がしたんだ。
「ひょっとしておなかが空いてるの?」
 気まずいふんいきを変えるぜっこうのチャンスだと思って、ぼくは女の子におなかが空いているか聞いてみたんだ。そしてら女の子は首をこくりこくりってたてにふったんだ。
「分かった、じゃあ何が食べたい? この町に売っているのなら何でも買ってきてやるぞ」
「……たいやき……」
「たいやき、たいやきが食べたいんだな? ようし待ってろ、今買ってきてやるからっ」
 そう言って僕は近くのお店にたいやきを買いに行ったんだ。何か大切なことがあった気がしたけど、気にしないでその女の子をとにかく喜ばせたいと思って買いに行ったんだ。



「はあ、はあ、走って買いにいっちゃったからつかれちゃった。はいっ、たいやき」
 なかなか息が落ちつかなかったけど、ぼくはその女の子の喜ぶ顔が早く見たくって、息を整えるのをがまんしてたいやきをわたしたんだ。でも女の子はたいやきを口にしなかったんだ。
「どうして食べようとしないの? たいやきは焼き立てが一番おいしんだぞ」
「……お母さんが、知らない人から物をもらっちゃダメだって言ってたから……」
 知らない人? あっ、そう言えばまだ自己紹介をしてなかった。それじゃ知らない人って言われても仕方ないよね……。
「じゃあ自己紹介すれば問題ないね」
「うん……」
「えっと、ぼくは祐一、相沢祐一。君はなんていう名前なの?」
「あゆ、月宮あゆ……」
「あゆちゃんか、なんだかお魚みたいな名前だね」
「うぐぅ、ちがうよ……。ボクのあゆはお魚のあゆじゃないよ……。ボクは風の子、風のあゆだよ……」
「風の子……?」
 風の子のあゆ? そう言われても僕には何のことだかさっぱり分からなかった。
「ええっと……と、とにかく、これでもう知っている仲だぞ! これでぼくからたいやきをもらっても大じょうぶだね!」
「うん……」
 そうしてあゆちゃんはようやくたいやきを口にしたんだ。
「どう、おいしい?」
「しょぱい……」
「それはあゆちゃんの涙の味だよ」
「でも、おいしい……」
 おいしいと言われて人安心。それにしてもおいしいなら自分の分も買ってくるんだったな〜。でも、残りのお金はカードダス使いたかったし、ま、いいか。
「半分あげる……」
 あゆちゃんがたいやきを食べてるのをじっと見てたら、あゆちゃんにたいやきをあげるって言われたんだ。
「いいよ、あゆちゃんのために買ってきたたいやきだし」
「でもさっきから食べたそうにボクのことを見てたよ……」
「ぎくっ!」
 う〜ん、やっぱり食べたいと思ってたのバレちゃったか……。
「図星だよ……。うん、でもあゆちゃんがくれるっていうんならすなおにもらうよ」
 そうしてぼくはあゆちゃんから半分個になったたいやきをもらったんだ。そのたいやきは本当においしかったんだ。
「ごちそうさまっ、たいやきも食べ終わったし、ぼく、そろそろ行くから」
 ぐい、ぐいっ
 そしたらあゆちゃんがまた僕の服を引っ張ってきたんだ。
「何?」
「また、たいやき食べたい…」
「そんなに気に入ったの? 今日はもう買ってあげられないけど、また今度いっしょに食べよっか」
「うん……」
「でも、場所とか決めてないと会えないな……。そうだっ、明日の今と同じ時間くらいに駅のベンチで待ち合わせってのはどう?」
「うんっ……」
「じゃあ決まり! 明日駅のベンチで会おうね。じゃあね、あゆちゃん」
 ぐい、ぐいっ
 待ち合わせ場所を決めてぼくは帰ろうと思ったけど、またまたあゆちゃんがぼくの服を引っぱってきたんだ。
「何? まだ何かあるの?」
「約束……ちゃんとくるって指切り……」
「別に指切りなんかしなくたってちゃんと来るけど、あゆちゃんが指切りしたいんなら……」
 そうしてぼくも指を出してあゆちゃんと指切りをしたんだ。
「指切った!」
「うん。じゃあね祐一君、ばいばい……」
 そうしてあゆちゃんは手をふって帰って行ったんだ。
「さてと、ぼくもそろそろ帰るかな……」
 ぐいっ、ぐいっ
 そしたら今までで一番強い勢いでだれかに服を引っ張られたんだ。
「あゆちゃんは今帰ったばっかだし……。だれ?」
 あゆちゃんは帰ったから一体だれなんだろうと後ろの方を見てみたんだ。そしたら後ろにいたのは泣き出しそうな顔の名雪だったんだ……。
「うそつき……」
「あっ……」
 何か約束してたなぁって思ってたら、名雪と店の前で待ってるって約束してたんだった……。あゆちゃんを喜ばせるのにせいいっぱいですっかり忘れてた……。
 でもよかった〜、今のシーンをあゆちゃんに見られていなくて。ぼくがあゆちゃんに約束を守らない人だって思われなくて、本当によかったよ……。


…第参話完

※後書き

 改訂版第参話です。何気に『MMR』について触れられております(笑)。最初この改訂版を書いた当初は「こんなの」や「あんなの」作ることになろうとは夢にも思いませんでしたね(爆)。今ではSSよりこれらのフラッシュの方が名が知れてるようですが。
 さて、自称は原作寄りにすると言いましたが、幼少の祐一君は「ぼく」で通します。理由はこちらの方が可愛いからです(笑)。私はショタ萌えですので(爆)。故に男の子は可愛く描きたいのです。他はどうあれ、これだけは絶対に譲れません(笑)。

第四話へ


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